藤村・漱石はいかにして国民的作家となったか

 以前、文芸評論家絓秀実が、国民作家として島崎藤村田山花袋を挙げ、日露戦争後の時代に、藤村の部落差別の「破戒」と花袋の女性差別の「布団」が書かれたとレクチャーで語った。私は、その話を受けて、日本近代の始まりに、部落差別と女性差別が、国民を形成するうえで強力に作用したのではないかと語ったのだった。国民的作家の名に値するのは藤村と漱石であって、女性差別の古典としては「虞美人草」や「三四郎」等の漱石の諸作品があり、「布団」は一つのマイナー文学にすぎなかったと思うけれども。藤村と漱石とは性に憑かれた人間であって、男女関係という共同体を超える交通の場に固執することで国民的作家となったのだった。