向井千惠「青天」ゼロ次元・加藤好弘「いなばの白うさぎ」

 向井千惠とダンサーとのコラボレーションで、向井の即興の胡弓演奏とダンスを堪能できた。向井は
「即興表現は、今その時間、空間そのもののダイレクトな表現である。普通の演劇のように筋書きがあり、演出家の指図のもとに役者が演じるというシステムの対極にあるものである。その時間、空間を共有する個々人が即自己表現を行うことによりコラボレーションを作り出していく。演じる者同士のお互いの波動、それを見るものの波動、その場の波動をすべて即表現、昇華し、演じる者、見るものを解放させる力を持ちえるのだ」
と語っている。
 70年代初頭の伝説的儀式映画「いなばの白うさぎ」の上映の後、「ペニスをつけた女」の儀式が行われた。
 裸体の男達が密集デモで登場し、舞台奥中央に並んで横たわる。その上を二人の若い女性がいなばの白うさぎのようにゆっくり歩いていく。何回も往復する、舞台の隅で、加藤好弘がアジテーションを行う。 
 60年代に、ハプニング集団ゼロ次元主宰として活躍した反芸術の旗手加藤好弘は、70年に万国博覧会への抗議行動を行った。師事して何年も鞄持ちをした岡本太郎太陽の塔を設計しなければ、抗議行動はしなかったろうと加藤は言う。
 それまで加藤の反芸術を評価していた美術評論家は、誰も抗議行動を評価しなかった。美術評論家は駄目だ。澁澤龍彦三島由紀夫は評価する文章を書いてくれたが、そういう人は今いなくなった。ポリスのような連中ばかりだ。
 「体制の内部で革命するんだ」と岡本太郎は後で言ったが、嘘っぱちだった。抗議行動のおかげで会社を潰され、日本にいれなくなった。取引先との打ち合わせにも公安が何人もついてくるんだもん、と加藤は語った。
 加藤は最近、30年ぶりに日本での芸術活動を再開した。今の日本の若者に、話がわかる者が何人もおり、最近のフランスでの大衆運動の盛り上がり等、未来に希望を加藤は見ている。
 会場から、ダンスをやっている女性が、岡本さんは少なくとも創っていた。破壊するばかりなのが、団塊の世代の嫌な所だ。私達と一緒にやりましょうよ、と訴えていたが、加藤は無言だった。
 岡本にとっては加藤が、加藤にとっては岡本が、芸術創造にプラスになる存在だったのは確かだ。この二人の関係が断たれたのは、二人にとって不幸だったし、それが日本の不幸だった。この二人に限らず、生まれる可能性があって生まれえなかったものが、日本にはたくさんあったのだと思える。
 破壊だけでは何も生まれないのは確かだが、加藤のような存在を排除した所からは何も生まれえないのも確かなことだ。